新規イオン伝導体



◎新規イオン伝導体の開発とイオン伝導機構の解明

 イオン伝導体は燃料電池をはじめ、二次電池やキャパシタ、化学センサーや分離膜など様々な電気化学デバイスへ応用されます。
さらに、新しいイオン伝導体の創成はエネルギーデバイスだけでなく、新規なエネルギーシステムの提案にもつながることが期待されます。
本研究室では、特に燃料電池や二次電池への応用を目的として、新しい無機固体電解質の開発と伝導機構の観測を行っています。



新規電解質材料の開発

 左には、本研究室で検討している様々なプロトン伝導性電解質材料の導電率をグラフに示します。
これまでに、無機酸素酸塩や無機リン酸ガラス、さらにそれらを用いた複合電解質について検討を行ってきました。
特に中温域(100~300℃程度)におけるプロトン伝導に着目し、高いプロトン伝導性を示す材料の合成に成功しています。




新しいイオン伝導機構の探索

 高い性能を示す電解質材料の創成にはプロトン伝導機構に関する理解が不可欠です。
右には無機酸素酸塩の一種である硫酸水素セシウム(CsHSO4)の構造を示します。
CsHSO4は141℃で相転移を起こし、高プロトン伝導性を発現することが知られています。



ナノ構造制御で導電率が上昇

 さらに本研究室では、電解質の複合化によって多様なプロトン伝導の加速現象が現れることを観測しています。
左にはプロトン伝導性を示すリン酸亜鉛ガラス(ZnO-P2O5)とピロリン酸チタン(TiP2O7)微粒子の複合電解質のプロトン伝導率と伝導モデル及びTEM画像を示します。
比較的導電率の高いZnO-P2O5ガラスと低伝導性のTiP2O7微粒子を複合化することによって、より高いプロトン伝導性が発現したことがわかります。
これは、ガラスと微粒子の界面に高プロトン伝導性を示すナノスケールの層が形成するとともに、ある体積分率において高伝導層のネットワークが電解質全体に広がったためであると考えられます。

 この例のように、ナノレベルでの高プロトン伝導層やマクロレベルでのプロトン伝導ネットワークといったイオン伝導の階層構造を意識し、新規材料の開発と輸送現象の解明に取り組んでいます。

燃料電池関連技術


(1) 中温作動燃料電池(ITFC)


 本研究室では、新規なエネルギーシステムの提案を目指し、無期プロトン伝導体を電解質に用いた燃料電池の開発に取り組んでいます。
特に150-300℃程度の中温域で作動する中温作動燃料電池(ITFC)に着目して検討を行っています。


 中温作動燃料電池は、100℃以下で作動する現状の固体高分子型燃料電池(PEFC)と比較して、作動温度の向上による電極反応活性の向上や高価な白金触媒の使用量の低減が期待できます。
一方、800-1000℃程度で作動する現状の固体酸化物型燃料電池(SOFC)と比較すると、作動温度が低いために劣化による材料制約が大幅に緩和されることや、プロトン伝導体を用いることによる燃料利用率の向上及びネルンストロスの軽減などが期待できます。
これらの特徴を生かした高効率なエネルギーシステムの創造に向けて、新規電解質材料の開発、高活性電極材料の探索や電極反応機構の解明に取り組んでいます。


◎多様な燃料に対応した燃料電池の開発と新しいエネルギーシステムの提案


エタノール燃料の完全分解

 本研究室では中温作動燃料電池におけるエタノール燃料の直接利用について検討してきました。
エタノールはバイオマス等広範な原料から合成が可能で化石資源の代替燃料として期待されており、高効率なエネルギー変換技術が求められています。
しかし、これまでの直接エタノール形燃料電池は室温近傍での発電を念頭に置いたPEFCによる研究が中心でしたが、エタノールのC-C結合は解裂反応の障壁が大きく、この温度域でのエタノールの完全酸化反応は困難でした。


 一方、本研究室で250℃近傍における白金カーボン触媒上でのエタノールの反応について、電気化学測定や生成物分析を用いて検討したところ、
(1)中温域ではエタノールのC-C結合解裂反応が速やかに進行し(90%以上)、CO2までの完全酸化反応が進行する経路の電流効率が最大で80%に達すること
(2)中温域では電気化学反応に加えてエタノールの熱反応が進行し、電極反応の活性化過電圧が大幅に減少すること
などがわかり、中温作動燃料電池におけるエタノール燃料の高効率な直接利用の可能性を示すことに成功しました。
さらに、完全酸化反応の電流効率の更なる向上や安価な材料による白金触媒の代替などを目指して新規触媒の開発や電極設計に取り組んでいます。




炭化水素・アルコール類の電極酸化反応の追跡

 炭化水素やアルコール類の電極表面上での酸化反応過程の把握は、電極界面反応の基礎的な知見の蓄積にとどまらず、燃料電池を用いた新規なエネルギーシステムの提案の観点からも重要なテーマです。
電極触媒の検討も並行して行っています。

右の図は硫酸水溶液中の2-プロパノールの電極酸化反応に対して、交流インピーダンス法から得た電気化学応答(複素平面表示:Cole-Cole plot)を示しています。
このスペクトルを解析することで、電極酸化反応の速度論的な知見を得ることができます。




(2) 固体酸化物形燃料電池(SOFC)


◎製造プロセスに着目したSOFCにおける微量元素の挙動の解明


 SOFCは作動温度が高く、最も発電効率の高い燃料電池であり、また、水素だけでなく様々な炭化水素燃料の直接利用が可能です。

当研究室では、SOFCにおける微量元素の挙動が電池性能に与える影響に着目して研究を行っています。SOFCの運転時には、通電の効果により電極・電解質内部に含まれる微量元素の拡散や電極表面などへの偏析が生じることで、電池性能に影響を与える現象が多数報告されています。特に出力密度の向上にはこれらの微量元素の挙動を評価し、制御することが非常に重要です。
そこで製造プロセスで混入し得る微量元素に着目し、その微量元素が電池性能に与える影響を評価し、その影響の制御手段の検討を行っています。
これらの検討により、出力密度の向上及び安価な低純度材料の使用や電池材料の再利用による低コスト化の実現を目指しています。


(3)機能性薄膜合成のプロセス開発



 薄膜化プロセスは、エネルギーデバイス構築のために無機電解質膜や水素透過膜への応用が期待できます。
当研究室ではミクロ相分離を利用した機能性薄膜の合成に着目し、合成プロセスに関する検討を行っています。




 左の図はメソスケールで垂直方向に相分離構造を有する薄膜の形成過程について動的モンテカルロシミュレーションで検討した結果です。
表面に付着した粒子の表面拡散長の違いによって得られる薄膜の構造に違いが見られます。
実際の薄膜合成はスパッタ法で作製を行いました。

エネルギー貯蔵技術



◎大容量蓄電システムを目指したエネルギー貯蔵技術の開発

 環境調和型社会の実現に向けて、太陽電池や風力発電などの再生可能エネルギーの導入や電気自動車の普及に期待がもたれています。しかし、電気は貯めることが難しいエネルギー形態です。現時点で最も社会に普及したリチウムイオン電池は高出力で比較的大きなエネルギー密度を持つことから小型化・軽量化が重要な携帯機器用電源として、携帯電話やPCのバッテリーの多くに用いられていますが、より大規模な利用用途では充電容量が足りず、また、導入コストが高いことから、低コスト・大容量な新しい蓄電デバイスが求められています。当研究室では充放電反応として有機ハイドライドの水素化・脱水素化や金属酸化物の酸化還元に注目し、ミクロな視点での材料開発や反応解析からマクロな視点でのシステム設計までを行うことで、新しい蓄電デバイスの開発に取り組んでいます。


(1)有機ハイドライド再生型燃料電池
 有機ハイドライドは次世代水素キャリアとして注目されています。右図には有機ハイドライドの酸化還元反応を充放電に用いる有機ハイドライド再生型燃料電池の模式図を示します。当研究室では中温作動燃料電池(ITFC)における有機ハイドライドの燃料極上での水素化・脱水素化、つまり充放電反応の反応解析および電極材料開発を行っています。


(2)金属酸化物の酸化還元を用いたエネルギー貯蔵技術
 金属酸化物の酸化還元反応を充放電に用いる金属空気電池は、リチウムイオン電池と比較して数倍大きなエネルギー密度を有することから、近年大きな注目を集めています。一方、金属酸化物の生成時における反応の停止や酸化還元反応活性の向上が課題となっています。当研究室ではこれら課題の克服を目指して、酸化還元反応の速度論的解析やモデル化、また、反応停止を防ぐ新たな金属空気電池システムの開発を行っています。

ケミカルループ法



◎ケミカルループ法を用いたエネルギー変換技術

 Chemical loop(CL;ケミカルループ)法は、通常の燃料の燃焼反応とは異なり、酸素源に金属酸化物中の格子酸素を用いて、燃料の燃焼と熱回収を行うエネルギー変換システムです。CL法のシステムは還元塔と酸化塔の2つの塔からなり、それぞれの塔での反応は以下のとおりです。

(還元塔)CmHn + (2m+1/2n) MO → 2m M + H2O + CO2 + 吸熱
(酸化塔)M + 1/2 O2 → MO + 発熱

この反応によって、低品位の熱を用いて還元反応を起こし、酸化反応によって高品位の熱を生成することができます。さらに、還元塔に水蒸気を導入することにより、水素を生成することも可能です。このように、CL法は様々な応用の可能性を持つ環境調和型エネルギーシステムとして近年注目されています。




(1)酸素キャリアの酸化還元反応に対する担体効果の検討
 ケミカルループ法におけるもっとも大きな課題は還元反応速度の向上と酸化還元サイクルにおける劣化の抑制です。当研究室では特に酸素キャリアの還元反応に対して担体材料が与える影響に着目して研究を進めています。当研究室ではこれまで、酸素キャリアとしてNiOを利用し担体材料として酸化物イオン伝導体であるGadolinia-Doped Ceria(GDC) を用いた際に、還元反応開始温度の低下や反応誘導期の減少が観測されたことを報告して来ました。この結果は実システムにおける作動温度の低減や反応器の縮小へと繋がる可能性を秘めています。現在、さらなる反応活性の向上に向けて、詳細な反応機構の解明や酸化還元サイクルに与える影響の検討を進めています。



(2)ケミカルループ法を用いたエネルギー変換技術のシステム評価と経済性評価
 CL法はガスタービン・スチームタービンを利用した発電目的やスチームを添加することによる水素製造目的など、目的に合わせた応用性が高く、多方面における利用の可能性に期待されています。一方で、CL法を導入した様々な化学反応プロセスの熱力学的・実験的な多くの報告がなされているにとどまり、速度論的な知見から経済性評価まで検討している報告は十分でないのが現状です。当研究室ではCL法を用いたエネルギー変換プロセスを社会に導入するに際の普及ポテンシャルと課題を提示することを目的として、熱力学的評価と速度論的評価の二つの観点から原材料・製造プロセス・装置材料を評価することで、有用性の高いCL法エネルギーシステムの提案を行っていきたいと考えています。

collaboration


(1)海外の大学との研究協力



・Imperial College London (UK)
Franchescoさん (2019年度)
研究テーマ:ケミカルループ法






・Imperial College London (UK)
Jackさん (2011年度)
研究テーマ:中温域における酸素還元反応に対するSnO2の添加効果






・Leiden University & Technical University of Delft (Netherlands)
Noraさん(2019年度)
研究テーマ:SOFC



(2)国内の研究機関との共同研究

・産業技術総合研究所
 「ケミカルループ法を用いた水素製造技術」





・低炭素社会戦略センター
 「低炭素技術の構造化」